ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領がアメリカに対して核兵器をポーランドに移送するよう要請したことを明らかにした。フィナンシャルタイムズのインタビューに答えた。
ドゥダ大統領は、ドナルド・トランプ大統領が西欧や米国に保管されている米国の核弾頭をポーランドに再配備することは可能なはずだと述べ、この提案についてアメリカのウクライナ担当特使キース・ケロッグ氏と話し合ったと明らかにした。
さらに、「ベラルーシに核兵器を移転する際にロシアはためらうことさえなかった。彼らは誰の許可も求めなかった」と述べてアメリカの判断で実現は可能だと主張した。
【解説】
ロシアへの危機感が核抑止力へ向かわせる
「核シェアリング(核共有)」とはNATOで行われているもので、アメリカ軍の核兵器をドイツやイタリア、トルコなどが自国内に受け入れ、運用方法についてアメリカと協議を行い、使用する際にはその国の航空機が運搬する仕組みだ。それをポーランドが要請するのはもちろんロシアに対する危機感からだ。ロシアはすでにポーランドの隣国ベラルーシに核兵器を配備している。
また、トランプ政権の仲介でウクライナ戦争の停戦に向けて事態が動き出している。停戦が成立する場合、ロシアにとって有利な条件での停戦となる可能性が高い。現状、ロシアはすでにウクライナの20%近い地域を占領しており、直近の戦況もロシアが優勢である。停戦を言い出しているのはアメリカなのだから、どうやってもロシアから占領地を取り戻すということにはなり得ない。
チェンバレンの宥和政策の記憶
そうなるとロシアは結局、「侵略によって利益を得た」ということになる。ナチスドイツに対する甘い対応が第二次世界大戦に繋がったイギリス首相チェンバレンの宥和政策を例に挙げて、ロシアがさらに別の国を侵略することにつながるのではないか、という指摘がされている。指摘は分かるが、当時とは状況が異なるうえ、そんな単純ではないと思うが、いずれにせよそうした懸念は存在している。
そうした停戦の可能性が見えてきたからこそ、ドゥダ大統領はロシアに対する抑止力を高める必要性をさらに強く感じているのだろう。
欧州で一斉に動き出す独自安全保障論
一方でドゥダ氏の政敵でもあるトゥスク首相は「核の傘に関し、フランスと真剣に協議している」と明かした。フランスのマクロン大統領は自前の抑止力で欧州を守る「戦略的議論」に乗り出すと表明している。
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👉ちなみに・・・ マクロン大統領はトランプ政権1期目の2019年に「NATOは脳死状態」と発言し、ヨーロッパが独自の防衛力を強化すべきだと言い始めています。トランプ政権が「ヨーロッパの安全保障へのアメリカの負担が過剰だ」と考え、ヨーロッパ各国がもっと防衛費を負担すべきだと言い出したことや、NATO加盟国であるトルコがロシアとの軍事協力を強化するなどNATOの基盤が揺らいでいることがきっかけになりました。しかし、その根底にはフランス伝統の「ド・ゴール主義」が流れています。外国、特に英米に影響を受けずフランスの独自性を守ることへのこだわりがフランスには根強くあるのです。
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マクロンの方針に対してドイツの次期首相が確実視されるメルツ氏も「仏英との核安保協議」を主張している。トランプ政権はヨーロッパを守るつもりはないから自分たちで防衛を強化しなければならないという危機感だ。
鍵を握るスターマー首相
一方でイギリスのスターマー首相は、アメリカは信頼できる同盟国だとしてヨーロッパでのこうした発言を諫めている。トランプ氏への反発や危機感によって、ヨーロッパの側からもアメリカと距離を取ろうという気分が高まってきているが、スターマー氏がそれを必死で引き留めようとしている構図である。イギリスの中では中道左派、リベラル側であるスターマー氏は過去にはトランプ氏の外交や温暖化対策、移民政策などを批判してきた。しかし、現在のこの立ち位置を見ると、やはり英米のアングロサクソンの「鉄の結束」を感じさせる。
アメリカに依存し続けてきたヨーロッパ
このヨーロッパの混乱はどこから来るのか。もちろん直接的なきっかけはトランプ大統領であり、ロシアのウクライナ侵攻だ。しかし、根底にあるのはヨーロッパがアメリカに依存し続けてきたことにある。そしてアメリカ国民はそれを「過剰だ」と考えるようになった。アメリカがかつてほどの圧倒的な国力ではなく、中国、そしてインドが迫ってくる中で、「自分たちの国益により直結する部分に資本を集中したい」と考えるようになったのである。これは社会心理としてはある意味で自然なことだろう。そしていまや、ヨーロッパは豊かで平和で良い暮らしをしていながらアメリカ軍に依存する「安保タダ乗り」を続けていると考えるようになっている。ことはトランプ大統領一人の問題ではないのだ。<
日本も覚悟を問われている
トランプ大統領の返り咲きを受けてこれまでアメリカに頼ってきたヨーロッパは大きな混乱に陥っている。それはいずれ向き合わざるを得なかった問題がいま来たに過ぎない。そしてこのヨーロッパの混乱を見て日本は何を学ぶのか。問われているのは私たちも同じである。
