・日中外相会談では関係改善の機運を維持したいという中国の思惑にじむ
・石破政権は日中関係改善に邁進も、日中首脳会談では一転して中国に厳しい姿勢を確認。トランプ政権との連携との間で混乱したメッセージに
・中国は日米首脳会談での台湾巡る声明に抗議・それでも関係改善したい中国
・石破政権は中国に配慮して台湾には冷たい姿勢
・石破政権にこの機会を生かす戦略はあるのか

 石破政権が中国との関係改善を急いでいる。習近平体制の現状や国際情勢を認識した上でのことだろうか。中国は外交的に行き詰まり日本に接近してきている。その中国に様々な問題について見返りも得ずに自ら接近している。去年10月1日に始まった石破政権。既に自身の問題などで黄色信号が点っているが、中国に対処する戦略はあるのだろうか。

 日中韓外相会議

 3月22日、岩屋外相、中国の王毅外相、韓国の趙兌烈外相(チョ・テヨル)が参加して3カ国の外相会合が東京で行われた。2023年の11月以来1年4ヶ月ぶりで、今回は日本が議長国である。会議では日中韓首脳会議の早期開催に向けて調整を加速することで合意している。一方、王毅外相は今年終戦から80年になることに関連して「歴史を真摯に反省することで着実に未来を切り開くことができる」と発言している。「歴史のカードを使うこともできるんだぞ」と日本に圧をかける発言だ。

 日中外相会談

 日中の二国間の外相会談も行われた。岩屋外相は王毅外相に対して、尖閣諸島での中国軍の活動の活発化や南シナ海、新疆ウイグル自治区、香港などについて深刻な懸念を伝えた。台湾を巡っても「力または威圧による一方的な現状変更の試みへの反対」を表明した、と外務省は発表した。去年12月の会談ではウイグルや香港への言及はなく、台湾についてもこの発言は無かった。自民党内でも中国に弱腰すぎるという批判の声が渦巻いていたからか今回は厳しい姿勢を示した。2月7日のトランプ大統領との首脳会談の延長線上でもある。「関係改善」を志向しながら厳しい姿勢を見せる。一体どんな戦略を描いているのか。
 しかしそもそもボタンを掛け違えている。それを説明していきたい。

 石破政権発足時の日中関係
 
 石破政権が発足した去年10月時には日中関係は複雑な状況にあった。8月に中国軍機が初めて日本の領空を侵犯した。直前の9月には中国は水産物の輸入再開に向けて転換する姿勢を示したが、時期などについては明言していなかった。

 自縄自縛の中国

 そもそもこの水産物の姿勢転換は中国自身の利益のために行ったことだ。
 中国は日本の処理水放出を非難し日本に厳しい国際世論を作り出そうと活動を続けた。一時は太平洋の島嶼国などが賛同したものの、日本が示し続けた科学的根拠への理解が徐々に広がり中国の目論見は外れた。それによって中国国内では反日感情が高まり、日本の子供が襲われる事件も相継いだ。そして日本企業の「チャイナリスク」への認識がさらに強まった。

 日本からの投資を呼び込みたいが、それどころか日本企業の撤退に歯止めがかからない。このため中国政府は水産物の輸入再開へ転換しようとしたが、中国国内で反発の声が上がり振り上げた拳を下ろすに下ろせない状況に陥った。処理水の放出について、散々、非科学的な脅威論を国民に刷り込んだツケだ。まさに自縄自縛である。

 苦境の中国 経済の悪化

 中国の置かれた状況は厳しさを増している。
まず、経済面では悪化を続けている。GDPの30%を占めるとされる不動産関連の不況にともない経済全体、そして地方政府の財政が悪化しているが有効な解決策は見いだせていない。IMFの推計では地方政府の債務は隠れ債務も合わせると2000兆円という途方もない金額に達する。中国政府は去年の経済成長率を5%と発表しているがアメリカの調査会社「ロジウム・グループ」は独自の分析で「実際は2.4~2.8%」と推計している。

 追い詰められる中国外交

 外交面でも追い込まれている。アメリカの対中強硬姿勢が普通のこととなる中で、欧州に活路を見出そうと去年、習主席、李強首相、王毅外相がそれぞれ歴訪したがさしたる成果はなかった。欧州各国の対中姿勢は厳しくなる一方で、去年10月には中国製EVへの関税が決まり、各国の軍の艦艇による台湾海峡通過も繰り返されるようになった。戦狼外交によって中国からの投資にも危機感が高まり、さらにウクライナを侵攻するロシアの支援に回ったことが欧州の中国への評価を決定づけた。

 岩屋外相の拙速な訪中

 そうした状況で中国は去年秋以降、日本との関係改善に動き出した。さらにトランプ氏が大統領選挙に勝利するとその動きは強まった。すると石破政権はすぐに岩屋外相を訪中させる。あまりの拙速ぶりに驚いた。

 「政治の師」田中角栄

 石破氏は故田中角栄元首相を「政治の師」と繰り返し発言している。田中角栄氏は1972年に日中国交正常化を行なっており、石破氏は発言や著書から日中関係に特別な思いを持っていることが伺える。特に著書の中では台湾有事が切迫しているという指摘があることに触れ「そうであればこそ、ロシアや中国との外交関係を絶やさない努力が一方で重要だ」と述べている。

 そして去年10月10日にラオスで行なった李強首相との会談では「私の政治の師であり、政界入りを後押しした田中首相は『日中両国の指導者が明日のために話し合うことが重要だ』と述べた」と発言している。こうした発言そのものは十分納得できるものだ。

 日中関係の改善自体は重要

 中国の台湾侵攻が現実味を帯びてきている。その際、米シンクタンクなどのシミュレーションでは中国は先制攻撃として日本の米軍基地や自衛隊基地を攻撃することを想定しているものもある。アメリカは直後に軍事介入すると想定した上で、日米の戦闘機、航空機を破壊することは軍事上のメリットが大きく、日本を参戦させるデメリットを上回る、と分析されている。

 日中関係の良し悪しはその際の中国の判断に影響を与えるだろう。尖閣で一線を超えるのを抑止する効果もあり得る。日米の結束は重要だが、国益は必ずしも一致しない。その意味では日中関係の改善そのものは日本にとって死活的に重要になる。その面では間違っていない。

 拙速な岩屋外相訪中

 しかし、だからと言って尻尾を振って接近してはいけない。岩屋外相の訪中はまさにそれである。苦しい中国が日本に突破口を見出そうとしている。誰が見ても明らかだった。であれば、中国に対して様々な要求をつきつけ、これまで難しかった譲歩を引き出すべきであろう。

 中国の苦境の足元を見て、「尖閣に近付くな」「ブイを撤去しろ」「領空侵犯を認めて謝罪しろ」「水産物をの禁輸を解除しろ」「拘束した邦人を解放しろ」と様々な要求ができたはずだ。日本は急ぐ必要は全くなかったのだ。中国が歩み寄らなければそのまま距離を取っておけば良い。必ず何らかの譲歩をしてきたはずである。

 オーストラリアは様々な譲歩を引き出す

 中国はオーストラリアとの関係も改善しようと様々な手を打っている。2020年4月にオーストラリアのスコット・モリソン首相が新型コロナウイルスの起源について中国を念頭に「国際調査すべきだ」と主張したことを受けて中国政府は激怒。石炭、食肉、大麦、ワインと次々に輸入規制や高い関税を課すなどの報復に出た。しかし去年、オーストラリアとの関係改善を目指す姿勢に転換し、こうした様々な措置を次々と解除していった。日本はこの経緯を見ていたはずである。

 どれほど「弱腰か」探る中国

 しかし石破政権はさしたる対価も引き出さないまま軽々に岩屋外相を訪中させた。せいぜい領空侵犯の事実を「認めた」ていどである。それも「風のせいだった」という無理な言い訳をしており謝罪も説明もない。訪中の直前には新たなブイを与那国島の南のEEZ内に設置されている。日本が「どれほど弱腰か」を探る中国のいやらしいやり方だ。せめてその時点で訪中を取りやめるべきだった。

 完全に「拙速」だった。あまりにも早期に訪中をしたことで中国の複数のメディアが「トランプを警戒した日本が中国にすり寄ってきた」との論説を報じた。岩屋氏の訪中の是非について考えるなら、この中国の受け止めが答えであろう。

 アメリカは不快感

 外交筋によると、この拙速な訪中についてバイデン政権は日本政府に「不快感」を伝えたという。日米が結束して対応しなければ中国の暴発を止めるのは難しい。それも日本が何か重要なものを中国から引き出した様子もない。ただ単に「擦り寄って」いったのでは疑問を持つのも当然である。

 弱腰は別のリスクを生む

 前に述べたように関係改善自体は重要だ。しかし、このように大きく譲歩して関係改善を目指しては逆に中国を増長させる。尖閣に接近し、日本の領海に侵入していても日本はすり寄ってくるのか、弱い奴らだ、と受け止め、さらに強気に出るだろう。結果、いずれ尖閣にさらに強気の対応をとることにもつながる。別のリスクを生み出すことになる。外交とは国民の生命財産に直結するものなのだ。

 日米首脳会談では対中強硬に

 ところが2月7日に行われた日米首脳会談では対中共闘での日米の結束を確認した。会談後に発表された共同声明は全編が対中国を念頭に置いたものだった。さらに台湾について「両首脳は、両岸問題の平和的解決を促し、力又は威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対した。また、両首脳は、国際機関への台湾の意味ある参加への支持を表明した」としている。特に「国際機関への参加」と具体的に言及しているのはこれまでになかったことで中国を刺激しただろう。

 ブレる日本に中国が反応

 岩屋外相の訪中とは全く逆の姿勢を示されて中国は面食らっただろう。「一体どっちなんだ?」と。
あるいは「やっぱりアメリカには言いなりだ」と受け止めたかもしれない。いずれにしても中国はこれに反応した。

 3月7日に全人代恒例の外相会見で王毅氏は「両国の各界が往来を強め、国民感情が改善することを歓迎する」と関係改善を進めたい姿勢を示す一方で、台湾問題について「日本にはいまだに台湾独立勢力と通じている人々がいる。台湾を利用して問題を起こせば、日本にも問題をもたらすということを心に留めておくべきだ。『一つの中国』の原則は中日関係の政治的な基礎だ」と反発し、さらに「軍国主義という誤った道を繰り返さないことは、日本が常に怠ってはならない義務だ」と日本の防衛力強化をけん制したのだ。

 日本の姿勢がブレているため、それぞれに王毅氏が対応を迫られるという複雑な状況だ。関係改善を進めたい中国は、次の一歩をいつ踏み出すべきか、タイミングを探っている。それは王毅外相の訪日と外相会談、石破総理との会談でもそのまま表れている。

 日本の台湾への対応

 一方で、石破政権は台湾に対して非常に冷たい、失礼な対応をとっている。
 4月13日に開幕する大阪・関西万博についての日本の対応が波紋を呼んでいる。万博には台湾館が出展される。日本にとってはありがたい参加のはずだ。

 日本政府が台湾政府に抗議

 万博には国際博覧会条約というものがあり、博覧会国際事務局という組織が認めたものが万博である。台湾はこの事務局には加盟しておらず、民間企業の名義での参加となっている。これについて台湾の経済部が3月6日の発表文の中で「台湾は『TECH WORLD館』の名前で出展する」としていた。するとこれについて日本外務省が「台湾政府ではなく民間企業の出店であることを明確にすべきだ」という立場を伝えた、という。事実上の抗議である。

 ショックを受ける台湾

 台湾は当惑している。台湾政府当局者は筆者に対し「外交関係がないはずだから、ということだと思います。でも台湾にとって日本との関係は何よりも大切ですし、これで台湾側が腹を立てたりするようなことはありません」と話す。この問題で日台関係を悪化させたくないという気持ちが表れている。

 その上で「でも、台湾政府が全く関与してはいけない、というのは少し疑問があります。TSMCが熊本に工場を作るにあたっては日本政府から台湾政府に対して随分と誘致の働きかけがありました。だから台湾政府もTSMCに働きかけて熊本への進出が実現したんです」と首を傾げる。そして「これは中国政府から日本政府に抗議があったのだと思います。それを受けて外務省が台湾政府に申し入れをしたのでしょう」と悲しそうに話した。外務省が中国の言いなりになっている、と受け止めているのだ。

 これまで日台関係は旧安倍派人脈に大きく依存してきた。安倍晋三元総理を中心とした個人のアプローチを歓迎していたものの、それ以外の派閥への関係の広がりが弱かった。安倍氏が健在ならばそれは今も機能していたであろう。日本の政治は安倍氏を中心に回っていた。今回の台湾への冷たい対応はなかったはずだ。今、そのツケが出てしまっている形だが、だとしても今回の対応は疑問だ。

 戦略はあるのか

 一体、石破政権はどのような対中戦略を描いているのだろうか。毅然と要求することで取れるはずのものを取らずにただ接近していく「関係改善」が長期的な日本の国益になるのだろうか。一方で、その姿勢が短期間に大きくブレるのではどちらの姿勢も意味を持たなくなっていく。

 台湾侵攻が現実味を増す中で、日本の対中外交は重要性を増している。その中で日本の対中政策は定まっているようには見えない。残念ながら、石破政権の外交には警戒心を持ちながら見つめていかなければならない状況となっている。

投稿者 緒方遼

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