トランプ大統領は2日、ホワイトハウスのローズガーデンで会見し、「相互関税」として各国に課す関税を明らかにした。日本には24%、、EUに20%、韓国には25%を課す。中国にはすでに20%の関税を上乗せているがさらに34%を上乗せする。個別の関税率を発表しなかった国には一律で10%を上乗せしイギリスはこの10%だった。
トランプ大統領は「何十年もの間、米国は敵も味方も関係なく略奪されてきた。これは独立宣言だ」「貿易赤字はもはや単なる経済問題ではない。国家緊急事態だ」と述べた。
【解説】
これまでの他の政策とは全く別物と考えるべき
トランプ大統領は2期目就任以来、恐ろしいスピードで矢継ぎ早に様々な政策を打ち出してきた。その中でこの関税は全く異質で危険なものだ。他の政策と一緒に考えてはいけない。
外交は評価できる
まず外交面を考えてみる。
ウクライナ、ガザの戦闘をとにかく止めようという姿勢はその動機が何であれ、完全に否定できるものではない。ウクライナ停戦を巡って「プーチン大統領の主張を受け入れすぎだ」という批判が広がっていたが圧倒的に有利な立場のロシアを停戦に応じさせるためにロシアに理解を示したフリをするのは十分肯定できるものだ。実際、黒海の停戦をめぐってはロシアに譲歩しない強硬姿勢を示している。
欧州に負担を求めるのは理解できる
「欧州はもっと防衛に予算を支出しろ」という主張も、その経済力を考えれば決して荒唐無稽ではない。GDPでロシアのおよそ10倍にも上る欧州が「自力で防衛できない」と主張し続けるのは無理がある。アメリカは欧州への影響力を維持するために自ら負担を負い続けてきたのだが、欧州も長年にわたってアメリカに過度に甘えてきたと言われても仕方がない。そしてアメリカ国民の間では長年にわたってその欧州への不満が燻っていた。
イランと新たな核合意の期待
中東では、トランプ大統領の顔を立てたいプーチン大統領がイランのはしごを外し、新たな核合意の交渉に賛意を表明している。今後、トランプ大統領がイランに対して過度に高圧的にならなければ核合意が成立する可能性は高い。
中国とは「ディール」目指す
そして中国には今後も圧力を高めていき、ロシアの協力も得ながらどこかで中国との手打ちをする、というシナリオを描いているのだろう。ベストなシナリオとして「台湾への武力侵攻をしないこと」や「核・ミサイルの削減」での合意を目指しているのではないか。これもトライする価値は十分ある。一方でこれまでの米政権の方針を覆し、台湾有事が起きても軍事介入しないのではないかという懸念はある。
こうした外交政策には賛否はあれど、チャレンジする価値はある、あるいはアメリカの国益上理解はできる、というものがほとんどだ。これまでとは違ったとしても、別の形の安定、もしかすると「新たな世界秩序」というべきものを作る可能性すらある。
あまりに乱暴
しかしこの関税はあまりに乱暴だ。まず、関税が世界に何らかのプラスをもたらす可能性がほとんどない。関税によって各国のアメリカへの輸出は減少し世界経済全体にブレーキがかかるのは間違いない。
開かれたアメリカ市場は求心力の源
アメリカはこれまで、その巨大な市場を求心力として自由貿易、グローバリズムを提唱して世界に広げ、ドル中心の経済システムを維持してきた。開かれたアメリカ市場はアメリカのリーダーシップの原動力だったのだ。自らの指導力の根本を損ねる自傷行為でもある。
「秩序の破壊者」に
それだけではない。どの国も自国の国益は重要だが、それぞれが我儘を言っては混乱し結局全体の利益を損ねる。リーダー自らが他国の関税について全く根拠の分からない数字を挙げて「その報復だ」とうそぶく。そしてWTOのルールに反した関税を課している。これではアメリカは世界のリーダーではなく「厄介者」「秩序の破壊者」と受け止められるだろう。
アメリカの指導力の失墜は日本の脅威に
これが日本にとって深刻なのは直接的な経済への悪影響だけではない。アメリカが「世界のルールを破る厄介な大国」と見なされれば、中国、ロシアの危険性が「大差ない」と相対化されてしまうことになる。これは大きな脅威だ。すでにガザを攻撃するイスラエルを支援し続けたことで、ウクライナを侵略するロシア、それを支援する中国と同じだと見なされつつあった。
この関税は世界中の人々の生活に直接悪影響を及ぼす分、アメリカに対する嫌悪感はイスラエルへの支援への反発を上回る可能性すらある。そうなれば中国・ロシアに対抗してグローバルサウスを取り込んでいこうという日本などG7側の取り組みにも大きなマイナスとなるだろう。特にASEANは高関税を課されている国が多い。この関税はASEANでの中国の影響力拡大につながるだろう。
アメリカの有権者の反発はあるか
そしてアメリカ国民もダメージを受けるのは明らかだ。バイデン政権時代の物価高騰に不満を募らせていたアメリカの有権者たちがさらなる物価高騰に直面した時にどこまでトランプ大統領への支持を維持するだろうか。「求めていたのはこれじゃない」と感じれば、来年の中間選挙での大敗もありえる。
関税が大敗につながった歴史
さっそく共和党からそれを指摘する声が上がっている。指摘したのは「小さな政府」を標榜する保守派の代表格である共和党のランド・ポール下院議員だ。「選挙で大敗するぞ」と警告を発している。ポール氏は1890年と1930年に共和党が主導して関税を大幅に引き上げた直後の選挙でそれぞれ93議席、52議席を失って大敗した例を引き合いに出して反対を表明している。1930年のケースでは2年後の1932年にも共和党は100議席以上を失っている。共和党の大物上院議員テッド・クルーズ氏もアメリカの消費者に打撃を与える可能性があるとして、「良い経済政策ではない。私は関税のファンではない」と反対を表明した。
2期目発足以来、トランプ大統領は圧倒的なスピード感で次々と政策を打ち出し、50%近い支持率を維持してきた。その国民の支持と反対する者へのトランプ氏の攻撃を警戒して共和党内は「トランプには逆らえない」という重苦しい空気に支配されてきた。その中で大物2人が異を唱えたのは初めてだ。それだけこの関税はアメリカ国内でも懸念されている。
自動車業界の大打撃
その象徴が自動車業界だ。自動車専門の調査・コンサルを行うアンダーセン・エコノミック・グループが具体的な見通しを発表している。それによると、最も影響が小さい「アメリカで組み立てられアメリカ部品が多い小型・中型車」でも販売価格が2,500から4,500ドル上昇するという。そしてSUV、ピックアップトラックなどの中型車は5,000から8,500ドル、カナダ、メキシコ、ヨーロッパの部品使用していることが多い大型SUVなどは10,000から12,000ドルの価格上昇。さらに輸入車は8,000ドルから20,000ドル超の高騰を招くという。
これではアメリカの自動車メーカーも売り上げは落ち込むだろうし、消費者の不満も高まるだろう。こうしたことが様々な製品で起きてくる。物価が高騰しないはずはない。
テッド・クルーズ議員はトランプ関税が 「短期間で終わり、世界中の関税を引き下げる手段として使われることを期待している」 と話した。確かに、物価高騰が続けばアメリカ国民の不満が高まるのは目に見えている。トランプ大統領は各国の関税や彼の言う「非関税障壁」を撤廃することを要求し、各国と早々に何らかの「ディール」を行う腹積もりなのかもしれない。
しかし、荒唐無稽な数字を挙げて攻撃された各国がおとなしく応じるのか、その交渉にどれだけの時間がかかるのか、まだ何も見えていない。そして結果、何らかの「ディール」が成立したとしてもアメリカが失った「信頼」は容易に回復するものではないだろう。それは中国と向き合う日本にとって決して人ごとではない重い負担になっていくのである。